2013年5月26日日曜日

デッドハングは大きめのエッジで加重したほうが効果が高い

デッドハングによる指のトレーニング方法を比較した論文を読んでみた。デッドハングはフィンガーボードなどにぶら下がるトレーニングのこと。

López-Rivera, Eva, González-Badillo, Juan José (2012). "The effects of two maximum grip strength training methods using the same effort duration and different edge depth on grip endurance in elite climbers" Sports Technology 5:100-110.

  • 8a以上を登れるクライマーを2群に分けて、それぞれ異なる順序で2種類のデッドハングのトレーニングを行った
  • 2種類のデッドハングとは、18mmのエッジで最大の重りを装着して行う方法(MAWと表記)と、重りは使わずに可能な限り小さなエッジにぶら下がる方法(MEDと表記)
  • MED–MAWグループは4週間のMEDの後にMAWを4週間行った。逆に、MAW–MEDグループは4週間のMAWの後にMEDを4週間行った。
  • 最大筋力、持久力ともにMAW-MEDグループのほうが向上した。ただしp > 0.05。統計学的に変化は認められなかったという結論になるけど、著者によるとこれは標本数が少ないためだとか。
  • 体重の影響を除去すると、最大筋力と持久力、最大筋力の変化と持久力の変化の間には有意な正の相関が認められた
  • 得られたデータはMAW-MEDのほうが効果的であることを示唆している

この研究に至った経緯はだいたい次のような感じ。

  • 先行研究から指の最大筋力とクライミングのパフォーマンスには相関があることがわかっている
  • クライミングでは小さなホールドを持つ能力が必須なので、できる限り小さなホールドにぶら下がることがトレーニングになる(MED)
  • 数々の先行研究から重りを使ったトレーニングが筋力を向上させることがわかっている(MAW)
  • MEDとMAWを比較した研究がまだなかった

トレーニング方法について補足しておくと、デッドハングは最大筋力を鍛えることを目的として行われた。持久力の計測もしているけど、持久力のトレーニングはしていない。ホールディングはセミアーケで、MAWは18mmのエッジに13秒間ぶら下がれる最大の重りをつけて10秒間ぶら下がる。MEDは重りをつけずに13秒間ぶら下がれる最小のエッジに10秒間ぶら下がる。重量またはエッジのサイズは3秒間の余裕を残すようにセットごとに調整する。インターバルは3分。セット数は3から始めて、週ごとに5セットまで増やした。

論文全体としてはMAW-MEDとMED-MAWの比較を行っているわけだけど、MAWとMEDを単体で比較してもMAWのほうが向上した(最大筋力は9.6%と2.1%、持久力は16.69%と11.53%)。この結果に有意差は認められなかったけど、他の研究と比較しつつ、被験者がハイレベルなため9.6%の向上はsignificantと考えることができる、とされている。また、MAWの方が向上した理由は、重りの使用がより大きな筋活性とモーターユニットの動員を起こすためだそうだ。

(追記)strength testは、重りを装着して15mmのエッジに5秒間ぶら下がれる最大重量を計測することで行われた。MEDで使用されたエッジのサイズは5mmから10mmだそうで、3mmしか違わないMAWのほうが結果が向上するのは、特異性の原則から当然のようにも思える。しかし、著者のブログによると、strength testの値と10秒間ぶら下がることのできる最小のエッジのサイズには関連があり、また、12.5mmのエッジでの最大筋出力と、7.3mm、5.8mmのエッジでの最大筋出力に有意な正の相関を発見した研究もあるそうだ[1]。したがって、実施前にはMEDのほうが向上する可能性も考えられた、ということだと思う。論文では、15mmはthe most representative of the average size of holds used in competitionsとも書かれている。

(追記)5.8mm程度までは、MAWを行うことで、より小さなホールドを持てるようになることが上記から示唆される。しかし、特異性の原則からMEDも行うほうが効果的と考えられ、その際はMAW-MEDの順序で行うのがいい。

(追記)strength testの指標をエッジの小ささにすることはできない。5.8mm以上のエッジでの最大筋出力と、2.8mm、4.3mmのエッジでの最大筋出力に相関が認められなかったため[1]。

トレーニング期間終了後、脱トレーニングの効果を調べるためレスト期間が設けられた。ただし、デッドハングをやめただけでクライミングは続けていた。2週間のレストで少しだけ強くなって、さらに2週間レストしたら少し弱くなった。

実際にこのトレーニングを行うには、著者のブログで公開されている動画を見るのがわかりやすい。文章でのまとめは次の記事を読むのがいいと思う。

重要な注意点だけここにも列挙しておく。

  • 20mmで40秒、10mmで15秒ができない人はMEDをやる
  • 成長期の子供やクライミング経験2年未満の人はデッドハングをやらない。前者は骨端板が弱く、疲労骨折など怪我の恐れがあるため。後者は腱などの組織がトレーニングに耐えられるほど適応していないと考えられるため。
  • 重りを増やしていって体重の70%程度に達したら、エッジのサイズを小さくして重りを減らす。腰に悪いので。

ちなみに、限界までやらずに3秒間の余裕を残すのも先行研究の結果[2]を踏まえてのことだそうだ。

参考文献

  1. Bourne, R., Halaki, M., Vanwanseele, B., Clarke, J. (2011). "Measuring lifting forces in rock climbing: effect of hold size and fingertip structure." J Appl Biomech 27:40-46.
  2. Izquierdo, M., Ibanez, J., Gonzalez-Badillo, J. J., Hakkinen, K., Ratamess, N. A., Kraemer, W. J., French, D. N., Eslava, J., Altadill, A., Asiain, X., Gorostiaga, E. M. (2006). "Differential effects of strength training leading to failure versus not to failure on hormonal responses, strength, and muscle power gains." J Appl Physiol (1985) 100:1647-1656.